【書評:ゲノム編集からはじまる新世界】ゲノム・遺伝子と掛けてカーリング女子と説く
ゲノム編集からはじまる新世界 超先端バイオ技術がヒトとビジネスを変える
ゲノム(遺伝子)は究極の個人情報ともいえます。この究極の個人情報の全貌を未だ人類は科学的に解明できていません。また解明されている部分についても、多くの人は究極の個人情報である自らのゲノムについても把握していないはずです。
いっぽうテクノロジーの側面では、未だ全てが解明されていないゲノムを編集する技術だけは格段の進歩を遂げています。人間以外の動物にはゲノム・遺伝子を改変することも可能なところまで既に来ています。
しかしながら、ゲノム編集というテクノロジーをどこまで人類の進展に活用するかは倫理的な課題などから共通解はみつかっていません。では、クリスパーキャス9とよばれる、最新のゲノム編集技術の特徴と進化はどこまで進んでいるのでしょうか?
続きを読む矛盾との付き合い方を考える 【書評:煤煙(北方謙三著)】
本書の主人公弁護士青井正志は二年前の離婚以降、自分でも薄々気づきながらも世の中の方向性とすれ違う方向に進んでいきます。闇金融のような悪道だけではなく、交通事故の被害者のような一般市民までをも相手にして社会的に追いつめようとします。しかしながら、闘いは訴訟の相手ではなく、自分自身のようだ。
この物語の私の着目点は物語の随所に現れる"矛盾"です
法治国家の番人である弁護士が過去の蓄積された判例や法の矛盾に楯突くべく、交通事故の加害者への精神的苦痛を事由に交通事故被害者に損害賠償を請求する。
「~自動車事故については、人間の力で不可能なことについても、前方不注意などという責任が問われる。運転者の責任は、遅れずにブレーキを踏むことで、それをしたあとの責任は発生しません。私は、そう思う」
「法律が悪いんです。人をはねたら理由のいかんを問わず、有罪。補償の義務も生じる。・・・」
「責任のない人間に、情緒的な自責の念を持たせ、八千万の慰謝料を請求することも私には非人間的に感じられますね」
青井は交通事故の法的責任の是非を巡って裁判で争おうとする。なんと、法の番人である弁護士が法の不義について、訴訟という形で法の場で争うのである。
とはいえ、よくある正義感あふれる熱血弁護士ではない。
続きを読む【書評:諸子百家(中公新書)】・・・読後に墨家について考える
今から2000年以上も前の古代中国の春秋戦国時代には偉大な思想家たちが活躍していました。
本書は、その思想のエッセンスが興味を持つのと理解しやすい構造で平易に述べられています。
情けなくも、私は儒家(孔子・孟子)、兵家(孫氏)はほんの少しだけ興味を持っていましたが、墨家、道家、法家などは本書を読む前は殆ど無知に近い状態でした。
そんな私が様々な思想が読み進めた中、強く興味を引いたのは墨家についてです。墨家とは、当時儒家と二分するほどの思想集団であっただけではなく、一種の軍事組織であり、それも義勇兵部隊とも思える思想集団でした。
墨家は「非攻」を説きます。民の間で殺人が起これば犯罪で罰せられる。しかしながら国家間の戦争による殺し合いは正当化される。
この矛盾について堂々と反論の思想を述べたのが墨家です。ただ平和を主張するのではなく、侵略されそうな国家を救うべき傭兵部隊として表出し、守護神の如く数多の戦いに参加します。墨守とは墨家が高度な戦術と兵器を持って強固な守備を築いたことが由来の言葉です。墨家とは非攻を貫き、理想を求め専守防衛のために高度に組織化された義勇兵部隊でした。
そして墨家は単なる専守防衛部隊でなく、多大な影響を与えた思想集団でもあります。その思想のキーになるのは「兼愛」です。
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日本企業の営業力
戦後、敗戦からの復興を目指した日本は、長期にわたる高度経済成長を経て「東洋の奇跡」と呼ばれました。
技術力を磨き自動車産業や電化製品は世界一の経済大国であるアメリカのマーケットに果敢に進出し、名だたる大企業を凌駕してマーケットリーダーとなり、世界有数の経済大国への道を築きます。
終身雇用、職能給など長期的な視点に立った人事制度、また工場労働者にもホワイトカラーと同等に人事評価を駆使しつつ、ものづくり大国への道を進み、その日本的経営は他国から研究対象にもなりました。
では、その時に営業という職種もしくは部門は世界有数のレベルを築いたのであろうか?
答えは否である。高度経済成長というのは、短期間に付加価値が増えたことと同等であす。では、なぜ急速に付加価値が増加したのだろうか?端的に考えれば、競合と比較して商品力が優勢だったからだろう。
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書評:幕末史
勝者の歴史に対するアンチテーゼとでもいうべきなのだろうか、
最近”反薩長史観”なるキーワードをよく聞きます。
本書は2008年に大学での講義を基に作成された書でありここ数年の反薩長史観が溢れてきてからの書ではありません。著者の本は初めて手に取りましたが、平易且つ口語調で書かれており、時代の流れが良く理解できます。著者のまえがきには反薩長史観を述べています。主張は客観的な事実を基に主観で書かれており、昨今の反薩長本と比べても、穏健に書かれていて誰でも読みやすくなっています。他の反薩長史観本のような戊辰戦争時の薩長の卑劣な行為にはそれほど紙面を割いていません。
幕末維新をよく考えるためには時代と人物を以下の3つに分けて考えるとすっきりします。
1、開国前後から桜田門外の変
今まで一部の上位官僚だけで幕政を取り仕切っていたのを、黒船来航を機に様々な立場の民から意見を広く求めたことが、その後の混乱への序章となるのがポイントである
広く意見を集め最適な解を求めることと、国を統率し統治を固めることができなかった。そもそもこの二つを両立することはなかなか困難ではある。それは現代でも変わらない。
様々な意見が世に溢れ、それを鎮めようと安政の大獄に走るが、最後は桜田門外の変で幕府の権威は失墜する。
続きを読む故郷日本に帰れなかった国際人 音吉(ジョン・マシュー・オトソン)
ペリー来航から遡ること16年前の1837年1台のアメリカ商船が浦賀沖に現れる。当時の江戸幕府は日本沿岸に接近する外国船は砲撃するいわゆる異国船打払令を発しており、浦賀奉行はそのとおり砲撃する。
実は浦賀沖に現れたアメリカ商船モリソン号には7名もの日本人漂流民が乗船しており、漂流民を送還するために遥々日本までやってきたのであった。7名の漂流民のうちの一人がこのブログの表題になっている”音吉”である。
音吉含めた14名はモリソン号事件の5年前に現在の愛知県美浜町から江戸に向けて出航した。しかし船は漂流し1年2か月後に現在のアメリカ西海岸にたどり着く。長い漂流生活で生き残ったのは音吉・岩吉・久吉のみとなり、3名はインディアンに救助される。インディアンは彼らを奴隷のように扱った後にイギリス船に売り払う。その後イギリスは善意なのか、はたまた漂流民を鎖国状態との日本との交渉手段として考えたのかはわからぬが、音吉含めた3名はイギリスに上陸する。
なんと彼ら3人はイギリスに上陸した初の日本人となった。さらには、まだそこから200年も経っていないというのも驚きである。
その後マカオ経由で日本に送還することとなり冒頭の浦賀沖まで船は向かう。砲撃されたモリソン号は薩摩に向かうが、ここでも砲撃され日本人は結果的に祖国から見放されてしまう。
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