【書評:サッカーと愛国(清義明著)】 スタジアムは社会の縮図なのか・・・
世界で最も人気のあるスポーツはサッカーです。いっぽうでその事実は、世界で最も影響力の大きいスポーツともいえます。
実はFIFA(国際サッカー連盟)にIOC(国際オリンピック委員会)さらには国連これらの加盟国数をみると一番加盟国数が多いのが実はFIFAです。世界中の人を惹きつける磁力の源は何なのでしょうか。
人は本能的に対戦という魔物に惹かれます。さらには競技としてスタジアム内の試合そのものだけではなく、歴史的背景や文化を融合させることで、人はより一層惹かれ熱狂していきます。しかもサッカー専用スタジアムは観客と選手がいるグランドが近接しているのも他のスポーツにはない特質です。
また、通常他のスポーツでは応援者を「ファン」と呼ぶのに対し、サッカーでは「サポーター」と呼びます。通常サポーターは応援するだけではなく、チームへ意見を持ち、時と場合によってはチームを弾劾することもあります。
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【書評:英語化は愚民化】無意識に使っている日本語をよく考えよう
副題には
〈日本の国力が地に落ちる〉
と記されている本書。
内容は過度な英語化政策への批判です。著者の施光恒氏はイギリスの大学院で修士課程を修了した政治学者です。
言葉は単なるツールではなくツール以上に価値あるものです。言語は人の価値観や思考に一定の影響を与えます。(サピア・ウォーフの仮説)
いっぽうツールとしての英語はグローバルビジネスには欠かせない道具であるのも事実です。IT企業がプログラミング言語を使えなければビジネスにならないのと同様です。
実は現在7000近くあるといわれている言語ですが、ユネスコの調査によると、そのうち2500もの言語が消滅の危機にあるとの調査結果が出ています。日本でもアイヌ語、琉球諸語の一部含め8言語が危機言語リストに上がっています。また、別の調査では、皮肉にも言語の多様性消失と経済成長は相関性ありとの結果も出ています。
やや本題とずれましたが、著者が主張するように英語化は果たして日本の国力を貶める政策なのでしょうか。
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【書評:共喰い(田中慎弥著)】 はじめて芥川賞作品を読む
読書家と名乗っていながらお恥ずかしいが、恐らく人生で初めて(もしかしたら学生時代に授業で読んだかもしれないが・・・全く記憶には残っていない)芥川賞作品を読了しました。
昭和末期の地方の田舎都市、女性に対して暴力的で且つ、一途な愛情とは無縁な父に対して反感を覚える17歳の主人公。血は争えないのか父同様暴力的な一面を醸し出しながら悩みます。物語はそんな主人公とその彼女。暴力的な父親とその暴力を受け入れている後妻。さらには戦争のため、片方の手を失った主人公の母親で暴力的な父の元妻。
この5人を軸に刹那的な感情が連続展開されながら進んでいきます。刹那的ではあるが大衆小説のようにジェットコースターの展開ではなく、人の奥底に潜む情念を話言葉ではなく、乾ききった文体で濃厚な描写を書き連ねてます。
この手の小説に慣れてないからか正直読み進めるのが少ししんどかった。まず第一に、物語が沈鬱である。次に作者の腕前が高いことから描写が重々しい。もしこれが長編作品なら途中でギブアップした可能性もあっただろう。
それでもこの本を読むことをお薦めします。私のような純文学になじみが無い方には尚更薦めたい作品です。主人公とその父親に嫌悪感を持ちながらも、最後まで見届けなければいけないような感覚になる。
自分の中でも、文体と描写の不一致感、脳と心の不一致感が立ち現れる。大衆娯楽作品にはない読感。読書脳が一つ成長したような気がしてきた。
【書評:ESG投資】 投資で社会は変わるのか
【書評:ゲノム編集からはじまる新世界】ゲノム・遺伝子と掛けてカーリング女子と説く
ゲノム編集からはじまる新世界 超先端バイオ技術がヒトとビジネスを変える
ゲノム(遺伝子)は究極の個人情報ともいえます。この究極の個人情報の全貌を未だ人類は科学的に解明できていません。また解明されている部分についても、多くの人は究極の個人情報である自らのゲノムについても把握していないはずです。
いっぽうテクノロジーの側面では、未だ全てが解明されていないゲノムを編集する技術だけは格段の進歩を遂げています。人間以外の動物にはゲノム・遺伝子を改変することも可能なところまで既に来ています。
しかしながら、ゲノム編集というテクノロジーをどこまで人類の進展に活用するかは倫理的な課題などから共通解はみつかっていません。では、クリスパーキャス9とよばれる、最新のゲノム編集技術の特徴と進化はどこまで進んでいるのでしょうか?
続きを読む矛盾との付き合い方を考える 【書評:煤煙(北方謙三著)】
本書の主人公弁護士青井正志は二年前の離婚以降、自分でも薄々気づきながらも世の中の方向性とすれ違う方向に進んでいきます。闇金融のような悪道だけではなく、交通事故の被害者のような一般市民までをも相手にして社会的に追いつめようとします。しかしながら、闘いは訴訟の相手ではなく、自分自身のようだ。
この物語の私の着目点は物語の随所に現れる"矛盾"です
法治国家の番人である弁護士が過去の蓄積された判例や法の矛盾に楯突くべく、交通事故の加害者への精神的苦痛を事由に交通事故被害者に損害賠償を請求する。
「~自動車事故については、人間の力で不可能なことについても、前方不注意などという責任が問われる。運転者の責任は、遅れずにブレーキを踏むことで、それをしたあとの責任は発生しません。私は、そう思う」
「法律が悪いんです。人をはねたら理由のいかんを問わず、有罪。補償の義務も生じる。・・・」
「責任のない人間に、情緒的な自責の念を持たせ、八千万の慰謝料を請求することも私には非人間的に感じられますね」
青井は交通事故の法的責任の是非を巡って裁判で争おうとする。なんと、法の番人である弁護士が法の不義について、訴訟という形で法の場で争うのである。
とはいえ、よくある正義感あふれる熱血弁護士ではない。
続きを読む【書評:諸子百家(中公新書)】・・・読後に墨家について考える
今から2000年以上も前の古代中国の春秋戦国時代には偉大な思想家たちが活躍していました。
本書は、その思想のエッセンスが興味を持つのと理解しやすい構造で平易に述べられています。
情けなくも、私は儒家(孔子・孟子)、兵家(孫氏)はほんの少しだけ興味を持っていましたが、墨家、道家、法家などは本書を読む前は殆ど無知に近い状態でした。
そんな私が様々な思想が読み進めた中、強く興味を引いたのは墨家についてです。墨家とは、当時儒家と二分するほどの思想集団であっただけではなく、一種の軍事組織であり、それも義勇兵部隊とも思える思想集団でした。
墨家は「非攻」を説きます。民の間で殺人が起これば犯罪で罰せられる。しかしながら国家間の戦争による殺し合いは正当化される。
この矛盾について堂々と反論の思想を述べたのが墨家です。ただ平和を主張するのではなく、侵略されそうな国家を救うべき傭兵部隊として表出し、守護神の如く数多の戦いに参加します。墨守とは墨家が高度な戦術と兵器を持って強固な守備を築いたことが由来の言葉です。墨家とは非攻を貫き、理想を求め専守防衛のために高度に組織化された義勇兵部隊でした。
そして墨家は単なる専守防衛部隊でなく、多大な影響を与えた思想集団でもあります。その思想のキーになるのは「兼愛」です。
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日本企業の営業力
戦後、敗戦からの復興を目指した日本は、長期にわたる高度経済成長を経て「東洋の奇跡」と呼ばれました。
技術力を磨き自動車産業や電化製品は世界一の経済大国であるアメリカのマーケットに果敢に進出し、名だたる大企業を凌駕してマーケットリーダーとなり、世界有数の経済大国への道を築きます。
終身雇用、職能給など長期的な視点に立った人事制度、また工場労働者にもホワイトカラーと同等に人事評価を駆使しつつ、ものづくり大国への道を進み、その日本的経営は他国から研究対象にもなりました。
では、その時に営業という職種もしくは部門は世界有数のレベルを築いたのであろうか?
答えは否である。高度経済成長というのは、短期間に付加価値が増えたことと同等であす。では、なぜ急速に付加価値が増加したのだろうか?端的に考えれば、競合と比較して商品力が優勢だったからだろう。
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