書評:幕末史
勝者の歴史に対するアンチテーゼとでもいうべきなのだろうか、
最近”反薩長史観”なるキーワードをよく聞きます。
本書は2008年に大学での講義を基に作成された書でありここ数年の反薩長史観が溢れてきてからの書ではありません。著者の本は初めて手に取りましたが、平易且つ口語調で書かれており、時代の流れが良く理解できます。著者のまえがきには反薩長史観を述べています。主張は客観的な事実を基に主観で書かれており、昨今の反薩長本と比べても、穏健に書かれていて誰でも読みやすくなっています。他の反薩長史観本のような戊辰戦争時の薩長の卑劣な行為にはそれほど紙面を割いていません。
幕末維新をよく考えるためには時代と人物を以下の3つに分けて考えるとすっきりします。
1、開国前後から桜田門外の変
今まで一部の上位官僚だけで幕政を取り仕切っていたのを、黒船来航を機に様々な立場の民から意見を広く求めたことが、その後の混乱への序章となるのがポイントである
広く意見を集め最適な解を求めることと、国を統率し統治を固めることができなかった。そもそもこの二つを両立することはなかなか困難ではある。それは現代でも変わらない。
様々な意見が世に溢れ、それを鎮めようと安政の大獄に走るが、最後は桜田門外の変で幕府の権威は失墜する。
同じく、孝明天皇、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允、勝海舟、坂本龍馬、徳川慶喜、松平容保、新選組とこの時代の登場人物は多彩です。
開国前後に広く意見を求めた結果、意を述べることが平然と行われ、様々な登場人物が国内外の人物の主義主張と接触しあう中で徐々に幕府の権威が揺らぎ、幕府崩壊へとつながっていきます。
子供のころ教わった尊王攘夷運動から幕府崩壊へと行き着いたような単純な図式ではないことがよくわかります。
2に続いて西郷・大久保さらには岩倉具視、少し遅れて伊藤博文・山縣有朋など
著者が主張するのは3の明治維新とは維新にあらず・・・と主張する。
維新を辞書で引くと
「すべてが改まって新しくなること。特に、政治や社会の革新。」
と書かれている。
確かに本書を読めば徳川家から薩長士族への単なる政権交代であり、それ以上でもそれ以下でもない。政権交代後は薩長を中心とした内部対立が浮き彫りになる。天皇を中心とした国の形はまだまだ先の話であり、不平士族の反乱から西南戦争まで数多くの薩長士族が死を迎える。
現代に置き換えても日本で民主党が政権奪取したあとのゴタゴタの経緯を重ねると、政権交代後の内部対立というのは避けられないものなのかと思ってしまう。
西郷・大久保・木戸の維新三傑が亡くなるまで、内部対立は続き、三傑の死後、近代日本は生まれたといえます。結果として討幕の主役から討幕時代の脇役へと政権交代がなされました。有力者がこの世を去るときは時代の変換に繋がると再認識させられます。