乱読サラリーマンのオリジナル書評

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矛盾との付き合い方を考える 【書評:煤煙(北方謙三著)】

煤煙 (講談社文庫)

 

本書の主人公弁護士青井正志は二年前の離婚以降、自分でも薄々気づきながらも世の中の方向性とすれ違う方向に進んでいきます。闇金融のような悪道だけではなく、交通事故の被害者のような一般市民までをも相手にして社会的に追いつめようとします。しかしながら、闘いは訴訟の相手ではなく、自分自身のようだ。

 

この物語の私の着目点は物語の随所に現れる"矛盾"です

 

法治国家の番人である弁護士が過去の蓄積された判例や法の矛盾に楯突くべく、交通事故の加害者への精神的苦痛を事由に交通事故被害者に損害賠償を請求する。

 

「~自動車事故については、人間の力で不可能なことについても、前方不注意などという責任が問われる。運転者の責任は、遅れずにブレーキを踏むことで、それをしたあとの責任は発生しません。私は、そう思う」

「法律が悪いんです。人をはねたら理由のいかんを問わず、有罪。補償の義務も生じる。・・・」


「責任のない人間に、情緒的な自責の念を持たせ、八千万の慰謝料を請求することも私には非人間的に感じられますね」

 

 

青井は交通事故の法的責任の是非を巡って裁判で争おうとする。なんと、法の番人である弁護士が法の不義について、訴訟という形で法の場で争うのである。

 

とはいえ、よくある正義感あふれる熱血弁護士ではない。

 

 

闇金業者に対して、脅しや傷害を絡めながら非合法な方法で追いつめ、多重債務者を借金から救うが、その多重債務者を自らが望む成果のため手駒として奴隷のような汚い仕事を課し利用する。

 

北方ワールドとも捉えられるハードボイルドタッチの文章スタイルで、世の中的には許容されない一人の男の主観を客観的な著述で書かれています。主観を客観的に書かれているので、主人公の行いが客観的に正しいことかと想い誤りやすい。よって読者にとって物事の善悪が混沌としてくる。これこそハードボイルド小説の醍醐味であり、流石は著者の作品とも感じる。

 

人類が編み出した法という代物も万能ではない。現世の社会でも矛盾とパラドックスに溢れています。人が営む世界から矛盾がなくなる日など来るはずはないのだろう。


そんな中、自らの主観に基づく行為を貫き続ければ、破滅への道へ着々と突き進む結果となる。矛盾との付き合い方とは何なのだろうか。様々な矛盾との向き合い方が人の個性に紐づくのだろう。