乱読サラリーマンのオリジナル書評

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【書評:野望の憑依者(伊東潤著)】 悪党が滅びるとき・・・

野望の憑依者 (徳間時代小説文庫)

 

歴史小説といえば、戦国と幕末明治維新が、質量ともに抜きんでていますが、私は南北朝時代も好きです。しかしながら、この時代の歴史小説は僅かです。
鎌倉幕府を終焉させ、朝廷と武士が入り混じりながら、建武の新政を経て室町幕府を築く激動の時代を、歴史小説家の先生方には、もっとテーマとして取り上げてほしいと切に願っております。

 

南北朝時代の悪党といえば誰を思い浮かべるでしょうか、歴史観によって変わるでしょうが、朝廷に楯突いた足利尊氏鎌倉幕府政権に批判的な動きの楠木正成、はたまた後醍醐天皇を悪党と考える方もいるはずです。

本書は足利尊氏・直義兄弟とトロイカ体制を築き、足利政権樹立に導いた高師直を主人公に歴史ピカレスクロマンを鮮やかに描いてます。

悪党師直に、武力は劣るが政治の保守本流の直義、リーダーシップがあるのかないのかわからない(笑)尊氏。この3人を中心に物語は進んでいきます。

 


室町幕府成立までは、師直と直義は意見の対立がありながらも、お互い足利家の繁栄のため、バランスを取りつつ進んでいました。しかしながら室町幕府成立後に、対立していた後醍醐天皇新田義貞楠木正成などが没すると、政治信条から性格まで正反対の両者は反目しあい、幕府成立前のトロイカ体制には戻れない関係となります。

 

冒頭の一幕を引用します。

_恨みたければ恨むがよい、いかに恨んだとて、力なき者には何もできぬ。

師直は仏神など欠片も信じていない

_人は死ねば土に変えるだけだ

それが師直の信じる唯一の思想らしい思想である(P14)

 

このような時代背景の中、師直は戦国時代の200年も前から、武力こそが是であり、勝者が総どりの弱肉強食をモットーに邁進する強者として生きていきます。
 

”憑依者”と書いて”よりまし”と読みます。あまり目にしたことのない言葉ですので、意味を調べてみました。

 

憑依の意味は
たよりとすること、よりどころにすること。霊などがのりうつること。

よりましの意味は

神霊がよりつく人間。

 

まさに野望をよりどころに、すべての行動原理が成り立つ師直。そんな師直ですが、室町幕府が軌道に乗り出しそうなころに、一人の女性を愛しみます。さらには観応の擾乱時には、直義を襲撃し、直義が逃げた尊氏邸を包囲までします。憎き直義は勿論のこと、尊氏まで葬れば、自らの天下が手に入る千載一遇の機会を得ます。
しかしながら、殿としての尊氏への恭順から和解を選び、自らの野望達成の最大の好機を逸してしまいます。

 

足利幕府の中枢として、人らしい振る舞いをした師直ですが、間もなくして、師直を筆頭とした高一族はあえなく姿を消してしまいます。

 

歴史にIFはあり得ませんが、尊氏邸を包囲した時に足利兄弟もろとも葬っていれば、その後の歴史はどうなったのだろうか。

南北朝の動乱の歴史も変わり、徳川幕府も存在しなかったのだろうか。イマジネーションを働かせ時間があるときにゆっくり考えてみよう。