乱読サラリーマンのオリジナル書評

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【書評:育休世代のジレンマ(中野円佳著)】

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

 

気鋭の女性ジャーナリストが一流企業に就職し結婚した後に子育てに奮闘している15人の女性への綿密なインタビューから調査した日本社会の問題点を提議した書です。私が所属する企業は本書の女性が入った企業と比較するまでもない中小企業ですが、自身が育休世代の部下を持っていることからも興味深く読み進めていきました。

 

本書の刊行は著者が大学院に提出した修士論文「均等法改正世代のパラドクス『男なみ』就職をした女性が出産後に退職するのはなぜかー」を一般向けに加筆修正した新書です。新書の刊行が2014年ですので、本書でインタビューなどを通じ書かれている時代は恐らく2010年から2013年頃の日本のビジネスシーンであろうことが想定できます。5年前と比較して日本における企業内部の女性活用状況は、大幅に変わったのかと問われれば、多くの人が「さほど変わっていない・・・」と感じるのではないでしょうか。

 

かねてより叫ばれている女性活躍という旗印の下、目に見える変化が感じられない企業での女性活躍。それを阻む要因はなんなのでしょうか。

 

この問題はかなり根深い問題が内包されています。

 

 

日本で歴史のある大企業においては、新卒一括採用で入社全員を幹部候補生として受け入れます。入社した後は、即戦力ではなく未来の企業戦士として育てます。そのシステムは直ぐには序列や差をつけず、長期的評価(もしくは序列評価の先延ばし)による就業者の格付けが慣例となっています。

 

大企業に入ればOJTでその会社固有のビジネスパーソンとして教育され、その会社独自のスキルが磨かれ、客観的なスキル以上の給与(客観的給与+企業独自スキル給与)を保証される仕組みが長らく続きました。この仕組みの下では、優秀な同期が多い職場になればなるほど、数年間とはいえ会社から離れ、戻った職場で時短勤務を続けることは、出世という一つの側面における競争では負けに繋がります。(私自身は、そもそもこの手の勝ち負けという感覚が好きではないが・・・)

 

長い経済成長期にはこの従業員の長期育成システムが強みを発揮していた時代もあったと考えますが、経済成長の踊り場または成熟期においては過去の日本企業の強みだった、その成功体験そのものが、女性活躍を阻む要因となっているのではないでしょうか。数多い幹部候補生から勝ち抜いてきた方たちが今現在経営ボードを担っている会社は、まだ日本には多いはずです。経営ボードを担っている方々は当然女性活躍が必要と思っていますが、それは女性に男なみ(若い時の自分なみ)の仕事へのコミットメントを求めています。

 

昨今のビジネスシーンでは、IT業界を軸にした破壊的イノベーション、さらにはM&Aの隆盛などにより、ここ数十年で今までの採用育成モデルが成功する業界はかなり減ってきました。平たく言うと、その会社でしか通用しない会社固有のスキル自体がその会社内であっても速いサイクルで陳腐化しています。

 

しかしながら、未だに男性社会であった企業社会内で女性が活躍し会社内で認められるためには、男なみの意識と仕事量が求められます。そのような企業側やライン職の男性の意識がそもそも時代錯誤の考えかとも思えます。

本書では出産後に継続・退職予備・退職済と3つの分類に分けていますが、男性も女性なみに結婚や親の介護など仕事とは関係ないライフステージにおける激変期には先の3つの可能性を考え、選択して生きていける世の中にすることが結果的に女性の活躍も進むと思えます。

 

人生二毛作と呼ばれ人生100年時代を迎えようとしている今、ビジネスパーソンに求められるスキルは陳腐化が速いとはいえ

①10年間くらいは稼げるスキルの蓄積
②変化への対応力

と両立が難しい二つのスキルがこれから重要になるかと思えます。

 

そのうえで女性活躍を進めるうえでの解決方法を考えてみました。

 

一つ目はテレワークの推進と出社ありきの文化の撲滅

育児世代はとにかく忙しく時間が足りない中、出社ありきの企業文化はそろそろ脱却すべきです。この辺りは恐らくベンチャー企業や中小企業の方が進んでいるのではないでしょうか。テクノロジーの進展は目覚ましく、自宅で会社にいるのと変わらぬ位の業務遂行ができる商品も既に出回っています。また、既に多くの企業で取り入れているフレックス就業制度と合わせることで1時間だけの学校行事の参加だけで休まなくてもよくなるだけでかなり働きやすくなるのでしょう。

 

二つ目は休職者や時短勤務者へのOffJT機会の創出

 

ベンチャーから伝統ある大企業までが乱立する社会の到来と男性就業者が女性の就労観に近づくこの二つが合わさった時こそが女性活躍時代の到来と思えます。

そもそも子供を産んで育児をするという人生の激変期に同じ会社で働き続けるメリットはあるのだろうか。転職できる(企業が欲しがる)能力を身に着けるためには、OffJT施策もそれなりに有効に働くはずです。ただこの転職に有利になるOffJT施策にかかる経費は企業が払うものでもありません。

 

選挙が近づく中、この施策に対する各党の主張をよく吟味すべきかと思いました。