乱読サラリーマンのオリジナル書評

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書評:奸婦にあらず

奸婦にあらず (文春文庫)

 

井伊直弼は、徳川四天王井伊直政を始祖とする彦根藩主の十四男として1815年に生まれました。聡明ではありながらも、庶子であり、十四男という境遇からは自他共に藩主への登用は限りなく薄いと思われていました。部屋住みとして静かに暮らしつつも成すべきことに精進し武道に茶道も極め和歌もたしなみ高い人格を備えるようになりました。直弼の部屋の名は、自らを花の咲くことのない埋もれ木に例え”埋木舎”。なんとも優美で品位のあるネーミングでしょうか。

そんな若君を愛しく想い相思相愛であったのが本書の主人公である『村山たか』です。村山たかは、はじめ多賀大社の諜報部隊として井伊家に送り込ます。神社も生き残るためには忍びをも利用する。大社は井伊家だけではなく朝廷などの機密情報を仕入れ、人脈を利用しながら、社格を守り続けます。キリスト教の歴史を考えても宗教が後世に影響力を残すためには政治的センスも必要条件なのでしょう。しかしながら、たかは、そんな忍びの掟を忘れさせるほど次第に直弼に情愛を傾けます。

 

そんな二人の前に鬼才の国学者長野主膳』が現れます。3人は同志として日本の行末を案じしっかりとスクラムを組んで未来の舵取りしていきます。開国しかり、安政の大獄しかり直弼の政策の断行には常に二人のパートナーがいました。しかしながら直弼は桜田門外の変により水戸浪士に暗殺されてしまいます。

 

 

桜田門外の変で幕府の威信が低下すると薩長を中心とした反幕勢力が盛り返し主膳も彦根藩から斬首の刑で葬られます。たか自身も悪徳政治の工作員とレッテルを張られ捕らえられる。死罪は免れるが冬の寒い中、三日三晩三条河原に晒されてしまいます。

 

相思相愛であった直弼が立身出世すると同時に離縁せざる得ない環境に置かれ、直弼が幕政を断行することにより、世論は幕府への不満で暴発します。

暴発の結果が桜田門外の変です。大老が暗殺されることにより、幕府の威信は大いに揺らぎ、結果明治維新は早まったともいえます。

明治維新後も、たかは生き続けなければなりませんでした。歴史書はどうしても男性目線での客観的事実ばかりになってしまうが、女性目線での歴史を想像しイマジネーションを働かせるには女性主人公の歴史小説を読むことを推奨したい。