乱読サラリーマンのオリジナル書評

読書は教養を広げる、教養を広げれば、人生も豊かになる。そんな思いでブログを書き続けます!

【書評:生命科学的思考】生命科学がビジネスに役立つ

 

 著者は生命科学の研究者で且つ遺伝子解析のスタートアップベンチャー起業家と稀有な経歴の持ち主です。

生命科学がビジネスに役立つのか疑問に思う方も多いと思いますが、
企業組織を構成しているのは人間。人間はいうまでもなく生物の一種です。生物の進化や生命法則の視点からアナロジー的に着想できます。

本書の主張は

  • 生命の法則を客観的に理解する
  • 生命科学を理解した上で主観で行動する

の2点です。

 

常に変化する外的環境に対して変わらぬ生命法則。そんな対比を考えながら読み進めてみてください。

 

 思考とはとても、エネルギーを消費するため、思考停止に陥るのは生命原則から自然に導かれる法則です。

そんな法則に抗い主観で考え動くことを本書は強く推奨しています。さらには生命科学を理解することで視野が広がり社会に見え方も変わると述べています。


人には独自に課題を認識して、解決するまでの道筋を考えることができます。その課題を認識して解決することが主観で動くということになります。

 

人が
生命原則を理解することで
視野が広がり、
課題を導き
情熱を持って解決する。

 

この一連の流れこそが
持続可能な社会への提言となって本書を読み進めることができます。

 

本書は哲学的に捉えられる内容も盛り込まれていますが、生命科学の知見も無い方にも読みやすい文体で書かれています。

コロナ禍で一人の時間も増え、考えにふけることも多くなったこの時期こそ皆様に手を取っていただきたい書です。

 

【書評:APIエコノミー(佐々木隆仁著)】API活用で日本企業は世界に勝てるのか

APIエコノミー 勝ち組企業が取り組むAPIファースト

 

 APIという機能が最近注目されています。APIとは端的に述べると『あるソフトウェアの機能を別のソフトウェアなどに提供し、連携する機能』、ソフトウェアに蓄積されているデータの相互連携とイメージしても良いのではないでしょうか。APIの魅力は、企業同士の連携を効率よく作り出せる点です。IBM社の試算によりますとAPIに関連する市場規模は250兆円にものぼるようです。

 

本書は技術者以外でも簡易にわかりやすく記した、APIの入門書であり、APIの取引所の開設などの提言だけではなく、APIが日本企業に向いているツールであるとも述べています。

 

Apple社がiPhoneで世界を席巻した時、よくビジネス上で話題になった事柄があります。iPhoneの個々の機能などは日本の企業でも充分創発は可能でしたが、日本の企業ではなく、Apple社がスマートフォンをいうイノベーションの利得を勝ち取りました。組み合わせをしてイノベーションを起こし、マーケットに参入したのがApple社であり、Apple社の現在の成功を見れば既存の機能やサービスを組み合わせるということが、今の世の中に重要な意味があるとも考えれれます。

 

ものつくり大国といわれた日本の製造業の競争力の源は摺り合わせ(インテグラル)型の技術と言われてます。摺り合わせ型の技術とは様々なパーツを相互調整しながら総合的に良質な製品を作り上げる技術です。自動車や精密機械が代表的な製品です。

いっぽう摺り合わせ型と対比される単純な部品の組み合わせであるモジュラー型の製品(androidスマートフォンやパソコンなど)は既に中国、韓国、台湾などのグローバル企業にコスト競争力に太刀打ちできない状況です。

 

果たしてAPIの活用で日本企業が世界に羽ばたくことはできるのでしょうか?
世界に羽ばたく条件は、日本企業が競争優位性を持っている摺り合わせ技術を駆使したAPIの活用ができるのか、否か・・・

そこが焦点のような気がします。

【書評:育休世代のジレンマ(中野円佳著)】

「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)

 

気鋭の女性ジャーナリストが一流企業に就職し結婚した後に子育てに奮闘している15人の女性への綿密なインタビューから調査した日本社会の問題点を提議した書です。私が所属する企業は本書の女性が入った企業と比較するまでもない中小企業ですが、自身が育休世代の部下を持っていることからも興味深く読み進めていきました。

 

本書の刊行は著者が大学院に提出した修士論文「均等法改正世代のパラドクス『男なみ』就職をした女性が出産後に退職するのはなぜかー」を一般向けに加筆修正した新書です。新書の刊行が2014年ですので、本書でインタビューなどを通じ書かれている時代は恐らく2010年から2013年頃の日本のビジネスシーンであろうことが想定できます。5年前と比較して日本における企業内部の女性活用状況は、大幅に変わったのかと問われれば、多くの人が「さほど変わっていない・・・」と感じるのではないでしょうか。

 

かねてより叫ばれている女性活躍という旗印の下、目に見える変化が感じられない企業での女性活躍。それを阻む要因はなんなのでしょうか。

 

この問題はかなり根深い問題が内包されています。

 

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【書評:告白(湊かなえ著)】 イヤミスの決定版

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

 

既に推理小説の人気サブカテゴリ―となっている”イヤミス”をご存知でしょうか。"イヤミス"とは読んだ後に嫌な気分になるミステリー小説のことを指します。人間の奥底に潜む負の部分を小説に散りばめ、謎解きとはやや相違した部分を強調することにより、読後にスッキリするのではなく、嫌な気分を作り出します。本書はこのイヤミスの女王と呼ばれている湊かなえさんの代表作です。松たか子さんが主演で映画化もされてますので、ご存じの方も多いことでしょう。

 

中学一年生の終業式に女性教師は担任のクラスのホームルームで『事故死と思われていた愛娘は、実は生徒に殺された。犯人である二人はこのクラスに今います・・・』という衝撃の告白から本書は始まります。また、警察には事故のままとするが、復讐のため、その二人が本日飲んだ牛乳にHIV患者の血液を混入したことを明らかにします。

 

事故死と報道されていた幼い子供が実は殺人死であり、その犯人がクラスメートであるというセンセーショナルな事実から犯人の関係者となり2年生に進学した生徒たちにも悲劇の連鎖がつづきます。

 

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【書評:スポーツ国家アメリカ(鈴木透著)】 スポーツから垣間見る現実世界とは

スポーツ国家アメリカ - 民主主義と巨大ビジネスのはざまで (中公新書)

 

ジャーナリストが書いたスポーツノンフィクションも良いですが、アカデミックの学者が書いたスポーツ書も読み応えがあります。文化・社会学の視点からアメリカ社会とスポーツの独自性を説いたなかなかの良書です。

 

アメリカ史では南北戦争後から数十年間を俗に『金ぴか時代』と揶揄されてます。イギリスから遅れてきた産業革命を契機に著しい経済成長を遂げました。しかしながら、ロックフェラーなどの著名な資産家が出現したかわりに、ほんの一部に偏った富、そして拝金主義、成金主義が蔓延りました。

この誤った過去を踏まえてアメリカでは、

  1. 公正な競争を保証するルールの必要性
  2. 一部の人間に利益を独占させない必要性
  3. 富の公正な配分の必要性

の教訓が生まれました。

実はアメリカのスポーツにはこの教訓から育まれた精神が埋め込まれています。例えば主審一人でグランドを縦横無尽にかけまわるサッカーと比較すると、ベースボールやアメリカンフットボールには何人もの審判で全体を監視しています。アメリカンフットボールでは他のスポーツに先駆けビデオ判定をも導入しました。そのような事実を踏まえると、昨今の社外取締役などを推奨するコーポレートガバナンス強化などの考えのベースとなることは同様な起因なのでしょう。

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【書評:維新の肖像(安部龍太郎著)】 失政はどこから生まれるのか

維新の肖像 (角川文庫)

 

平和の提唱者として、日露戦争を正義のための衝突と肯定し、戦後交渉でも力を発揮した朝河貫一。しかしながら、朝河の思いとは別に日露戦争後、日本は帝国化へと突き進むことになります。母国の変節ぶりを考慮した朝河は1909年に今なお読み続けられている【日本の禍機】を発表しました。

 

 

 

近い将来の災いへの警報を鳴らした朝河の予測通り誤った道を進み続けた日本は満州事変や上海事変を起こし、世界の列国から孤立への道を歩むことになります。

 

物語は反日感が強くなる1932年当時イェール大学で教鞭をとる朝河貫一と二本松藩士として戊辰戦争を戦った貫一の父朝河正澄の1968年当時と異なる時代の二重構造で進んでいきます。

 

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【書評:キリンビール高知支店の奇跡】現場力とは何か

キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え! (講談社+α新書)


心が変われば行動が変わる

ここでいう心とは意識のことです。
それでは、会社という自分の思い通りにならない集団生活で会社の成功に沿った方向へ意識を変えることは簡単に出来るのでしょうか。変えるのが難しい魔物を自ら簡単に変えられるのでしょうか・・・。例外を除けば普通の社会人の方々にとって答えは否である。決して大人の意識は簡単には変わりません。

だからこそ、会社において管理職というのは存在する価値があるのでしょう。1人では簡単には変えられない人の意識を変えるフォローをする。そもそも会社というのは、どこにでもいる普通の人たちが営む集団であり、プロスポーツオールジャパンのような超一流だらけの集団ではありません。

 

本書では高知支店の成功を起点にキリンビールがシェアトップを奪い返すまでの熱いビジネスパーソンの軌跡を関係者の視点から書かれています。

 

元々キリンビールは、ライバルの追随を許さないビール業界のガリバーとして君臨していました。スーパードライの爆発的ヒットによりアサヒビールにトップシェアも奪われ、対抗策として、キリンの象徴的銘柄といえるラガーの味の変更も失敗となり、従来顧客にソッポを向かれます。

 

そんなとき営業拠点の長はリーダーシップとして何を目指すべきでしょうか?

 

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【書評:野望の憑依者(伊東潤著)】 悪党が滅びるとき・・・

 

野望の憑依者 (徳間時代小説文庫)

 

歴史小説といえば、戦国と幕末明治維新が、質量ともに抜きんでていますが、私は南北朝時代も好きです。しかしながら、この時代の歴史小説は僅かです。
鎌倉幕府を終焉させ、朝廷と武士が入り混じりながら、建武の新政を経て室町幕府を築く激動の時代を、歴史小説家の先生方には、もっとテーマとして取り上げてほしいと切に願っております。

 

南北朝時代の悪党といえば誰を思い浮かべるでしょうか、歴史観によって変わるでしょうが、朝廷に楯突いた足利尊氏鎌倉幕府政権に批判的な動きの楠木正成、はたまた後醍醐天皇を悪党と考える方もいるはずです。

本書は足利尊氏・直義兄弟とトロイカ体制を築き、足利政権樹立に導いた高師直を主人公に歴史ピカレスクロマンを鮮やかに描いてます。

悪党師直に、武力は劣るが政治の保守本流の直義、リーダーシップがあるのかないのかわからない(笑)尊氏。この3人を中心に物語は進んでいきます。

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【書評:IoTまるわかり(三菱総合研究所 編】 つながったらどう変わるのか・・・ 

IoTまるわかり (日経文庫)

 

ここ数年のバスワードの一つである”IoT”とはなんでしょうか。
Internet of Thingsの略称であり、モノのインターネット化と抽象的に説明がつきますが、IoTで世の中の何が変わるのでしょうか?

あらゆるモノがインターネットに繋がる・・・2020年には世界中でインターネットに繋がるモノの数は500億個になるといわれています。それだけ沢山のモノがインターネットに繋がったら何がどう変わるのでしょうか・・・?


前よりある近接した概念で
M2M(Machine to Machine)がありますが、それとIoTとは何が違うのでしょうか。

素朴な疑問を持つことが、本質を知るためには一番重要なポイントです。本書はそんな素朴な疑問を持った方にこそお薦めできる書籍です。

 

本書では、IoTのエッセンスをあらゆるモノがつながることを前提に

①あらゆるモノからあらゆるデータを吸い上げ

②データを可視化して分析する

③分析したデータが他のデータやアナログ世界と共生する

④その結果新たな価値を生むこと

だと説いています。

私なりの凡人脳で考えると③と④の間のデザイン構想力がキーになるのではないでしょうか。デザイン構想力とは、他の分野に例えれば、食材を合わせて新たに美味しく魅力的な料理の品を考える技術などに通じるスキルにも思えます。

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【書評:43回の殺意(石井光太著】 少年犯罪は時代を映す

 

43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層

 

 世を震撼させ、被害者、加害者共に未成年ということで大勢の方々が関心を寄せた川崎の殺人事件。気鋭のノンフィクションライターが、被害者である上村僚太君の父親(母親は取材拒否)から加害者の家庭環境を明らかにします。さらには被害者・加害者と知己のある同年代の少年への丹念な取材を通じ、本事件の残忍さだけではなく、社会の問題点を深く突きつけます。

 

離島で育ち、両親の離婚から続く家庭環境の変化により、川崎へ引っ越しした少年がなぜ事件に巻き込まれてしまったのでしょうか。また、被害者より年上とはいえ、同じく未成年であった加害者はなぜ、このような残忍な事件をおこしてしまったのでしょうか。

 京浜工業地帯の中心地で知られている川崎市生活保護の受給比率は全国平均と比較しても高く、さらに事件の現場となった川崎区はその比率が川崎市内でも抜きんでて高い結果となっており、住民が困窮している状況がみてとれます。その影響なのか加害者3人全ては社会への適用能力が低く、人とのコミュニケーションにやや難があったようです。

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