【書評:告白(湊かなえ著)】 イヤミスの決定版
既に推理小説の人気サブカテゴリ―となっている”イヤミス”をご存知でしょうか。"イヤミス"とは読んだ後に嫌な気分になるミステリー小説のことを指します。人間の奥底に潜む負の部分を小説に散りばめ、謎解きとはやや相違した部分を強調することにより、読後にスッキリするのではなく、嫌な気分を作り出します。本書はこのイヤミスの女王と呼ばれている湊かなえさんの代表作です。松たか子さんが主演で映画化もされてますので、ご存じの方も多いことでしょう。
中学一年生の終業式に女性教師は担任のクラスのホームルームで『事故死と思われていた愛娘は、実は生徒に殺された。犯人である二人はこのクラスに今います・・・』という衝撃の告白から本書は始まります。また、警察には事故のままとするが、復讐のため、その二人が本日飲んだ牛乳にHIV患者の血液を混入したことを明らかにします。
事故死と報道されていた幼い子供が実は殺人死であり、その犯人がクラスメートであるというセンセーショナルな事実から犯人の関係者となり2年生に進学した生徒たちにも悲劇の連鎖がつづきます。
本書の特徴は章毎に別の登場人物が語り部となり、自らの行動原理となる主観を告白しながら進んでいきます。章が進むと語り部が変わることと併せ、全ての語り部がつっこみどころ満載の愚かで稚拙な行動原理は、決して陽気に読み進めることはできません。しかしながら怒りの感情が込み上げてくることもなく、先へ先へと読み続けたくなる著者の筆力が本書の魅力の一つです。
主な登場人物は
・冒頭の衝撃の告白をした主人公である女性教師と元フィアンセと二人の間の愛娘
・犯人と目される少年Aとその母親
・共犯者と目される少年Bとその母親
・主人公の女性教師が辞職後担任となった若い男性教師と学級委員である女生徒
精神的にも社会性も未熟な中学生の犯罪やいじめの要因と被害者の母である女性教師に犯人と目される少年AとBの母親も決して大人の解決策を持ってません。この3人の母親が子供との距離感と心の葛藤を個々のアイデンティティーで織りなす三者三様のドラマはいろいろ考えさせられます。
驚愕のラストによる読後の嫌な気分から一歩覚めると、作者が描きたかった物語は母と子の切なく、心苦しい物語にも思えてきます。