乱読サラリーマンのオリジナル書評

読書は教養を広げる、教養を広げれば、人生も豊かになる。そんな思いでブログを書き続けます!

日本企業の営業力

戦後、敗戦からの復興を目指した日本は、長期にわたる高度経済成長を経て「東洋の奇跡」と呼ばれました。

 

技術力を磨き自動車産業や電化製品は世界一の経済大国であるアメリカのマーケットに果敢に進出し、名だたる大企業を凌駕してマーケットリーダーとなり、世界有数の経済大国への道を築きます。

 

終身雇用、職能給など長期的な視点に立った人事制度、また工場労働者にもホワイトカラーと同等に人事評価を駆使しつつ、ものづくり大国への道を進み、その日本的経営は他国から研究対象にもなりました。

 

では、その時に営業という職種もしくは部門は世界有数のレベルを築いたのであろうか?

 

答えは否である。高度経済成長というのは、短期間に付加価値が増えたことと同等であす。では、なぜ急速に付加価値が増加したのだろうか?端的に考えれば、競合と比較して商品力が優勢だったからだろう。

 

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書評:下天を謀る

藤堂高虎といえば主君を七回も変えたことで変節漢、処世術に長けた世渡り上手のような印象の強い御仁です。本書を読めばその印象は誤っていることに気づくでしょう。もっばら最近では築城名手の智将として評価が高くなってきた戦国武将です。

本書は高虎をただの智将ではなく、大義を貫いて生き、家康と二人三脚で泰平の礎を築いた英雄として見事に描かれています。

 

下天を謀る(上) (新潮文庫)

 

 

下天を謀る(下) (新潮文庫)

 

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読書の嗜好性

本は幅広い分野を読むと良いという。自分自身でもそれを実践しているつもりでした。自分なりに確実に読まないと決めている本といえばSF小説くらいです。ただ、小説(SF小説以外)を買うときは本屋で棚を眺めながら、感覚で買うことが多い。自分なりにはビジネス・経済書に比べると、”小説を選択して購入する”という行為に関してあまり後悔はしたことはなかった。

 

日本の文学賞の双璧といえば唱和10年に制定された芥川賞直木賞である。

 

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書評:後妻業

 

後妻業 (文春文庫)

  

直木賞作家で映画化もされた作品。読む前から期待が膨らみます。

 

しかしながら、

登場人物は悪人ばかり

ノワール小説なのに人の死もナレーションのようにあっけない。

謎解きの語り部である元刑事も善人ではなく、ハードボイルド小説のような凛々しさも感じられない。

ミステリーというほど謎は深くなく、物語の行方も容易に予測でき、想像通りの結果になる。

それでもこの小説は面白い!

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書評:幕末史 

幕末史 (新潮文庫)

 

勝者の歴史に対するアンチテーゼとでもいうべきなのだろうか、
最近”反薩長史観”なるキーワードをよく聞きます。

 

本書は2008年に大学での講義を基に作成された書でありここ数年の反薩長史観が溢れてきてからの書ではありません。著者の本は初めて手に取りましたが、平易且つ口語調で書かれており、時代の流れが良く理解できます。著者のまえがきには反薩長史観を述べています。主張は客観的な事実を基に主観で書かれており、昨今の反薩長本と比べても、穏健に書かれていて誰でも読みやすくなっています。他の反薩長史観本のような戊辰戦争時の薩長の卑劣な行為にはそれほど紙面を割いていません。

 

幕末維新をよく考えるためには時代と人物を以下の3つに分けて考えるとすっきりします。

 

1、開国前後から桜田門外の変

主な人物は徳川斉彬・島津斉彬井伊直弼・ペリー・吉田松陰

今まで一部の上位官僚だけで幕政を取り仕切っていたのを、黒船来航を機に様々な立場の民から意見を広く求めたことが、その後の混乱への序章となるのがポイントである

 

広く意見を集め最適な解を求めることと、国を統率し統治を固めることができなかった。そもそもこの二つを両立することはなかなか困難ではある。それは現代でも変わらない。

様々な意見が世に溢れ、それを鎮めようと安政の大獄に走るが、最後は桜田門外の変で幕府の権威は失墜する。

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故郷日本に帰れなかった国際人 音吉(ジョン・マシュー・オトソン)

ペリー来航から遡ること16年前の1837年1台のアメリカ商船が浦賀沖に現れる。当時の江戸幕府は日本沿岸に接近する外国船は砲撃するいわゆる異国船打払令を発しており、浦賀奉行はそのとおり砲撃する。

 

実は浦賀沖に現れたアメリカ商船モリソン号には7名もの日本人漂流民が乗船しており、漂流民を送還するために遥々日本までやってきたのであった。7名の漂流民のうちの一人がこのブログの表題になっている”音吉”である。

 

音吉含めた14名はモリソン号事件の5年前に現在の愛知県美浜町から江戸に向けて出航した。しかし船は漂流し1年2か月後に現在のアメリカ西海岸にたどり着く。長い漂流生活で生き残ったのは音吉・岩吉・久吉のみとなり、3名はインディアンに救助される。インディアンは彼らを奴隷のように扱った後にイギリス船に売り払う。その後イギリスは善意なのか、はたまた漂流民を鎖国状態との日本との交渉手段として考えたのかはわからぬが、音吉含めた3名はイギリスに上陸する。

 

なんと彼ら3人はイギリスに上陸した初の日本人となった。さらには、まだそこから200年も経っていないというのも驚きである。

 

その後マカオ経由で日本に送還することとなり冒頭の浦賀沖まで船は向かう。砲撃されたモリソン号は薩摩に向かうが、ここでも砲撃され日本人は結果的に祖国から見放されてしまう。

 

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ブロックチェーンの未来は

ブロックチェーンとは、私的に理解している範囲内で表すと
『分散管理されている公開台帳』である。

特徴としては

  • 一定の法則に基づき公開されている記録である(すべてがオープンということではない)
  • 管理者が不要で分散管理されている
  • 低コストで運用可能
  • 改ざんが不可能な台帳である

今話題のビットコインブロックチェーンの技術をベースに運用されている。

正直文系の私にはブロックチェーンの技術的なことは奥深くまで理解できてないが、理解できてないことを前提に勝手に日本におけるブロックチェーンの将来を考えてみたい。

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書評:奸婦にあらず

奸婦にあらず (文春文庫)

 

井伊直弼は、徳川四天王井伊直政を始祖とする彦根藩主の十四男として1815年に生まれました。聡明ではありながらも、庶子であり、十四男という境遇からは自他共に藩主への登用は限りなく薄いと思われていました。部屋住みとして静かに暮らしつつも成すべきことに精進し武道に茶道も極め和歌もたしなみ高い人格を備えるようになりました。直弼の部屋の名は、自らを花の咲くことのない埋もれ木に例え”埋木舎”。なんとも優美で品位のあるネーミングでしょうか。

そんな若君を愛しく想い相思相愛であったのが本書の主人公である『村山たか』です。村山たかは、はじめ多賀大社の諜報部隊として井伊家に送り込ます。神社も生き残るためには忍びをも利用する。大社は井伊家だけではなく朝廷などの機密情報を仕入れ、人脈を利用しながら、社格を守り続けます。キリスト教の歴史を考えても宗教が後世に影響力を残すためには政治的センスも必要条件なのでしょう。しかしながら、たかは、そんな忍びの掟を忘れさせるほど次第に直弼に情愛を傾けます。

 

そんな二人の前に鬼才の国学者長野主膳』が現れます。3人は同志として日本の行末を案じしっかりとスクラムを組んで未来の舵取りしていきます。開国しかり、安政の大獄しかり直弼の政策の断行には常に二人のパートナーがいました。しかしながら直弼は桜田門外の変により水戸浪士に暗殺されてしまいます。

 

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書評:流星ワゴン

流星ワゴン (講談社文庫)

 

過去は変えられないけど明るい未来を築くためには人はどうすればよいのか・・・

冒頭のテーマを不思議な3組の父子の物語を巡って紐解いてみよう。

 

一組目は既に家庭崩壊が突き進み受験に負けた子供とリストラにあい死のうとしている父子。二組目は前述のリストラにあった父と、なぜか同い年として降臨してきた厳しい親父。そして上述の二組の父子を人生のターニングポイントへタイムマシンの操縦者のように連れていく役目を悲しい交通事故で亡くなり幽霊となった父子が務める。

 

死のうとしていた永田一雄は5年前に事故で亡くなった幽霊父子のワゴン車(タイムマシン)に乗車して過去の人生のターニングポイントに連れてこられる。一雄ははじめは渋々ながら徐々に未来を変えるために不器用ながら励み勤しむ。そこに現実世界では死を間近に迫ってる実の父が表れ同い年の朋輩となって何かと世話を焼きながら同行する。でも現実に戻れば何も変わってない。ファンタジー小説であるが現代だけではない普遍の親子関係の問題を考えさせられながら物語は進んでいく。

 

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山一證券倒産の教訓は

会社がなぜ消滅したか―山一証券役員たちの背信 (新潮文庫)

 

果たして自分がこの境遇だったら、毅然とした態度で組織の膿を公表しながら前に進むことができたのだろうか・・・

 

今から遡ること20年前、1997年11月24日に当時の山一證券社長は自主廃業の記者会見の最後に「私らが悪いので、社員は悪くありません。一人でも多くの社員が再就職できるように、この場を借りて、お願いします」と涙で訴えた。

これより30年ほど前にもこの巨大証券会社は倒産の危機を迎えていた。当時は大蔵省主導の下、日銀特融にメーンバンクの支援、その他有志による新体制へのバックアップもあり、危機を回避した。融資も「いさなぎ景気」の到来により、4年で返済し、奇跡の復活を遂げた。

しかしながら、危機回復の反動として、次期幹部候補といわれる組織のメンバーが次々に会社を去ることとなる。その結果その後の社長は通常MOF担といわれる大蔵省とのパイプ役企画室長出身者が続くこととなる。バブル期からは、最前線の営業部隊は法人相手に利回り保証という法律違反の営業に邁進しバブル崩壊と同時に簿外債務を抱えるこ。当然ながら簿外債務も法律違反である。

 

何年もの間法律違反を隠し続ける中、その暗闇を何も知らずに内部昇格で先述の記者会見の社長は任命される。同時期に起きた総会屋事件で10人以上の上席取締役が辞任した末の指名人事であった。

 

もう一度冒頭のメッセージを書き記す。
果たして自分がこの境遇だったら、毅然とした態度で組織の膿を公表しながら前に進むことができたのだろうか・・・

 

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